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やくみつるの「シネマ小言主義」 恣意的に仕組まれた「法令」の空恐ろしさ『コリーニ事件』

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提供:週刊実話

 2014年の本屋大賞「翻訳小説部門」で2位になるなど日本でも大きな話題となり、世界的ベストセラーになったドイツの法廷ものミステリーが原作。さすがに、面白かったです。

 国が違えば、法廷の様子が異なるところも興味深い点です。もちろん、セットの演出もあるのでしょうが、内装がポップというかカジュアルな印象で、まるで、どこかのオフィスの大会議室のようです。

 そして、弁護士こそ黒ガウンを羽織っていますが、裁判官も陪審員も平服で仰々しい感じではありません。ましてや、被告を法廷まで誘導する刑務官も背広姿。

 いったいなんでだろう…と考えていて、ふと気付いたのが、ドイツ人には制服アレルギーがあるんじゃないかということ。メルケル首相もいつも普通のおばちゃんみたいな格好をされていますし、ドイツ人は「制服」=「ナチス」の記憶として、生理的に拒否ってるのではないかと思うわけです。ナチスへの根深い嫌悪感があるからこそ、ナチスを主題にした映画が呆れるほど、繰り返し作られるのでしょう。

 さて、この映画で新しく知ったのが、ドイツの刑法では殺人を犯した場合、「謀殺」と「故殺」とに区別されていること。「誰かの命令で殺人を幇助しただけ」の人は「故殺」とされ、刑期も時効もかなり軽減されます。

 どんなに残虐な殺し方をしても「故殺」と判断されれば罪は軽く、しかも、たった15年で時効となるわけですから、被害者は納得いかないですよね。

 本作が妙にタイムリーに感じたのは、ナチス時代の犯罪に関与しながら「故殺」扱いのため、時効を迎えて追及を免れた元国家公安本部員たちを守ったのは、一見、無害そうな法令にシレッと挟み込まれた一文によるものだったらしいこと。今、我が国で問題となっている官邸が、検察を含む官僚の人事権を握る法案を無理やりにも採決しようとした一件と、どこか重なります。

 今回は、まさかの黒川前検事長の「賭けマージャン」の発覚であっけなく先送りされたからいいようなものの、今までも素人にはよく分からない法案が次々と通されていたようで、空恐ろしい気もします。

 いっそ、「小口の賭けマージャンはOK」という法案をパッと通してしまえば、逆に国民の支持を得られるかも。緊急事態宣言の最中に“何やってたんだ”という点に非難が集中しているのは、小額でも金銭を賭けずにマージャンに興じる人が、実はほとんどいないからでしょう。法改正するなら、“そこだろ”と思う次第です。

_______画像提供元_:(c)2019 Constantin Film Produktion GmbH

コリーニ事件
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■監督/マルコ・クロイツパイントナー 出演/エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロ 配給/クロックワークス 6月12日(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開。
■ドイツで30年以上、模範的市民として暮らしてきた67歳のイタリア人コリーニ(フランコ・ネロ)が、ベルリンのホテルで経済界の大物実業家を殺害。この事件の国選弁護人に、新米弁護士のカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク)が任命される。被害者はライネンの少年時代からの恩人。コリーニは殺害の動機を語ろうとしなかったが、調査を続ける中で、自身の過去やドイツ司法にまつわるスキャンダルが浮かび上がる。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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