生暖かくてジメジメして、非常に鬱陶しい陽気が続く時期です。でも、この時期にはヌルヌル〜な“お楽しみ”もあるんですよねぇ。そう、ウナギ釣りでございます。
この連載でも、大阪の寝屋川や兵庫の神崎川で楽しんだ際のことを書いておりますが、「都市河川」という名の「ドブ」で、ウナギのヌルヌル〜に塗れるのが好きなんですよ、ワタクシ。
というわけで、今年もドブ川のヌルヌルプレイを楽しむべく、東京都葛飾区を流れる中川へ向かいました。
かつて「全国主要河川水質調査」において、支流の綾瀬川とともにワーストの座を争った強豪のドブ川…いや、都市河川であります。無類のドブ好きのワタクシにとって、相手に不足はありません。
釣り場となるのは、近年整備された川沿いの遊歩道。まだ日のあるうちに到着したのですが、釣り人はおらず、ジョギングや犬の散歩を楽しむ人が時折通る程度です。
のんびりと仕掛けを結んで投げ込み、魚が掛かったことを知らせる鈴を竿先に付けてセット完了。後はコイツがチリンチリン♪ と鳴るのを待つばかりです。
梅雨が近いとはいえ、日没後の川原は涼しく、これからの時期、夕涼みがてらに楽しむウナギの夜釣りは何とも趣があります。
さらに、都市河川で楽しむウナギ釣りの魅力は、まだあります。
こういった都市河川の川沿いは遊歩道化が進みつつあり、涼しくなった日没後にジョギングを楽しむ方々をよく見かけます。その中には、もちろん若いオネイサン方もおりまして…。日々ジョギングしているであろう引き締まったシルエット、通過する際に聞こえる生々しくも荒い息づかい、そして通過後にフワッと漂うシャンプーだか化粧品だかの香り…。もう、もう、それだけでワタクシの竿はチリンチリン♪ のヌルンヌルンであります。
コレを楽しみに、夜な夜な川原に繰り出しているといっても、過言ではありません。
★何で今なの?しかも臭い魚…
ベンチに腰かけてアタリを待っていると、今回の釣り場もほどよくジョギングのオネイサンが通過していきます。「ハッハッ、ハッハッ」という息づかいの後を追いかけるように漂うメスの香り…、う〜ん、たまりません! もう、ウナギのアタリなんて、どうでもよくなってしまいました。
「ハッハッ、ハッハッ…」
「また来た、グヘヘヘヘ…」
「…チリンッ!」
ん、鈴の音?
「チリンッ、チリリンッ!」
激しく断続的に鈴の音が響きます。今かよ! 匂いが嗅げねぇじゃねぇかっ!
渋々ベンチから腰を上げて竿を手に取ると、「グングンッ!」と心地よい手応えが伝わります。そのまま竿をあおって巻き上げてくると、「バシャッ!」と川面に姿を見せたのは銀鱗輝くニゴイ…。
「クゥ〜、あの香しい残り香を嗅ぎ損ねた挙げ句に、オマエかよ…」
釣り上げたニゴイからは、都市河川特有の下水臭がフワァッと漂います。う〜ん、ボクが嗅ぎたかったニオイは、これじゃないんだな…。
結局、その後も掛かってくるのはニゴイばかりでウナギは釣れず。最後に釣れたニゴイを、お土産代わりにすることにしました。一応血抜きを施しますが、バケツに汲んだ水も手を洗う水もコイツが泳いでいた水ですから、もう台無しです。
★身は甘いのにとにかく臭い
このニゴイ、漢字で「似鯉」と書くことから分かるように、見た目はコイにそっくりです。川の中流域から河口近くまで広く生息するため、アユ釣りやルアーを使ったスズキ釣りでも顔を見せる定番の外道魚であります。
「まあコイに似ているのだから…」ということで、今回は「鯉こく」という煮物にして食べてみます。
それにしても、ニオイます。下処理中からコイ科独特な生臭さと下水臭が混じって、もう悪い予感しかしません。
鍋に入れると、思いのほか脂が出てちょっとビックリしましたが、出来上がってみると、汁全体からほのかに香る下水臭が…。
とりあえずひと口。口に広がる下水臭をこらえてよく噛んでいると、そこはかとない甘味が感じられます。ただ、Y字型の小骨が非常に多くて食べにくい…。『澤乃井 本醸造大辛口』で流し込みますが、汁全体から漂う下水臭が手強い…。
予想通りの強敵でしたが、ニゴイ自体から感じた甘味には、そこはかとない可能性が感じられました。きれいな川で釣った個体なら、もう少しイケるかもしれません。
この時点で、あの香しいオネイサンの残り香は、すっかり忘却の彼方へ消え失せ、ニゴイ料理から発せられる下水臭に、げんなりとなったのでありました。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。