直接のきっかけは、立憲民主党の枝野幸男代表の発言だ。新型コロナウイルス緊急事態宣言が全面解除された5月25日、党会合で「解散総選挙がいつあってもおかしくない」と言及したからだ。
全国紙政治記者が言う。
「安倍政権が5月25日に東京など首都圏を含めた全国の緊急事態宣言を解除したことは、第1波の新型コロナの収束宣言です。本来は感染者も死者も極めて少なく、世界の中でも賞賛に値する勲章もの。にもかかわらず、各メディアの最新世論調査では安倍内閣支持率は毎日新聞で27%(5月23日)、朝日新聞で29%(同23、24日)と第2次安倍政権発足以来の最低支持率に見舞われてしまった」
最大の原因は検察庁法改正案だ。政治家の逮捕も可能な検察の人事は、これまで政治不介入の聖域とされてきた。ところが、安倍政権が目論んだのは、検察トップ人事に影響力を及ぼす危険性のある法改正。狙いは、安倍政権寄りの黒川弘務・東京高検検事長を検事総長に据えること、と指摘された。
その黒川氏は検察庁法改正案が国会論議の真っ最中、賭けマージャンに興じていたことを5月21日発売の週刊文春で暴露されてしまった。結果、世論は検察庁法改正反対のムード一色となったのだ。
「文春砲を受け、黒川検事長は辞任し、改正案は先送り。ほぼ同時に、自民党内からも公然と安倍批判が沸き上がり、政権末期の様相に陥った」(同)
自民党中堅議員も安倍政権の危うさをこう分析する。
「永田町には、かつての青木幹雄元参院会長が唱えた『青木の法則』がある。政権支持率と政党支持率を足した数値が50%を切れば、その政権は半年以内に倒れるという法則です。今回の毎日新聞、朝日新聞の調査で毎日新聞は足した数値が52%、朝日新聞は55%と倒閣に近づいている」
そんな大逆風の中、なぜ解散総選挙の風が吹くのか。新型コロナ禍は完全に終息したわけではない。5月末には北九州市や東京などで第2波と思われる感染者増が起きている。
さらに、決定的なのは緊急事態宣言で日本経済は飲食業を中心に自粛を強いられ、厳しい経営難に直面している。中小企業の倒産は相次ぎ、リーマン・ショック(2008年)、東日本大震災(2011年)以上の経済不況が確実視されており、安倍内閣が解散総選挙など打って出られる環境とはとても思えない。
枝野代表らをはじめとする永田町界隈の「都知事選とのダブル選挙もある」という声は現実的ではない。
「もちろん、コロナ禍は完全に払拭されていない。しかも、安倍政権は低支持率。到底、選挙など無理というのが普通の政治家の発想だが、安倍首相は逆。野党は大多数の国民から国政の担い手として信頼されていない。求心力が衰えた安倍政権が総選挙を打つのは『野党が弱すぎる今しかない』という強気の発想なんです」(永田町消息筋)
確かに、先の朝日新聞の最新調査で自民党支持率は前回の30%から26%に下がった。しかし、野党の支持率は最高で立憲民主党の5%がやっと。安倍首相は支持率が危険水域になっても、野党がだらしないため、『青木の法則』は例外と高を括っているわけだ。
「前回2017年の284議席の大勝は無理にしても、必ず勝てると自信満々ですよ。逆に安倍首相にすれば、このタイミングで解散総選挙をやらないと、支持率は20%を切り、与党内から退陣勢力が強まりかねない。つまり、今がラストチャンスというわけです」(同)
自民党幹部が続ける。
「安倍政権も選挙を十分意識しているから、トータル事業規模234兆円、GDPの4割に達するコロナ対策費を打ち出した。その中には好評の10万円給付もあるし、ありとあらゆるところに徹底してカネをバラまき、クサビを打ち込んでいる。不評の検察庁法改正もあっさり先送りした。そして、ここでもう一つ総選挙を仕掛けトドメの経済対策をやる。安倍政権の隠し玉は消費税を5%か8%に引き下げる案です。国民の信を問い引き上げた消費税だけに、下げる時も国民の信を問うという論法だ。引き下げを説く政権に異論を唱える有権者は少ない」
東京都知事選とのダブル選挙については、
「都知事選は6月18日告示、7月5日投票が確定している。小池都知事が満を持して出馬表明し、宇都宮健児弁護士、ホリエモンこと堀江貴文氏らとの戦いになるでしょう。一方、国会は会期末が6月17日です。会期末解散で7月5日投票なら衆院選選挙期間は12日間だから6月23日公示となる。安倍首相が解散をヤル気なら、コロナ禍でも消費税引き下げの大義名分がある。ダブル選挙で首相が小池支持に回り、共に選挙カーからコロナ終息での共闘を訴える。小池都知事の支持率はいまだ高いだけに、相乗効果は抜群。野党は足並みがそろわないから、いくら低支持率でも安倍政権の勝利は動かないでしょう」(選挙アナリスト)
かくして、安倍首相はダブル選挙で勝ち、コロナを完全に抑えれば、2021年開催の東京五輪で首相のまま居座れる。死に体、安倍政権がゾンビのように復活する究極の手法が解散総選挙なのだ。