大塚家具が銀座に銀座本店を出店したのは2010年のため、ちょうど10年目での大移転だ。同社の広報担当者は、移転の真偽をこう答える。
「移転は事実です。現在の銀座本店は5月いっぱいで終了し、6月にはかなりコンパクトになりますが銀座7丁目の中央通り沿いに移転する予定です。移転理由は家具だけではなく、インテリア、家電なども含めて大塚家具の業態が幅広くなり、その変化に対応した前向きな移転と捉えていただければ幸いです」
現在の銀座本店の閉鎖は事実だというが、移転理由はなんとも曖昧だ。一連の流れを知る業界事情通が移転背景を語る。
「今の銀座本店は、三井不動産所有の銀座一丁目10階建てビルです。その1階〜7階が大塚家具の店舗で、売り場総面積は約7000平方メートル。家賃は月額9600万円と、ほぼ1億円で年間12億円に上る。契約した10年前の大塚家具といえば、創業者で大塚久美子社長の父親、勝久社長時代でした。当時、売り上げは’01年のピーク時からやや下がりぎみとなりつつあった。それでも勝久社長時代の大塚家具は一貫して『高級家具志向』だったので銀座にこだわった」
三井不動産と基本協定書を結んだのは、ビル建設前の’08年7月。ところが、直後にリーマン・ショックが起きてしまう。大塚家具は、その直撃に遭い経営に大きなダメージを受けた。そのため勝久氏が辞任、今の大塚久美子社長にバトンタッチし経営刷新を図ろうとする。久美子社長は銀座本店が高級家賃のため経営を圧迫していると判断、三井側に契約の見直しでの家賃引き下げを求めたという。
「三井側も当初の20年契約を10年にするなど、久美子社長の要請を受けて多少の減額には応じた。だが、久美子社長はさらに月額2000万、つまり年間2億4000万円の大幅値下げを要求したのです」(同)
三井側は、さすがにその要求は無理難題と突っぱねる。その後、家賃交渉は大塚内部で経営権を巡った父子バトルもあり沈静化したが、’18年に久美子社長が勝久氏に完全勝訴すると再び減額交渉を活発化させたという。
「交渉が暗礁に乗り上げると、大塚家具は減額訴訟を起こした。三井不動産も銀座相場をタテに逆訴訟を起こすなど、家賃を巡る訴訟合戦になったんです。最終的に和解して、今の銀座本店への移転と聞く」(同)
さらにこう続ける。
「大塚家具は経営戦略上、銀座店舗の営業が必要と訴えていた。移転先を銀座にこだわったのは一等地で認知度を高める意味合いが強いと思う」(同)
大塚家具の広報担当者に「銀座本店の家賃を巡り家主の三井不動産と訴訟沙汰があったというが事実か、また今回の銀座本店移転はその訴訟と関係があるのか」と問うと、こう答えた。
「今年2月、当社は賃貸訴訟関連で相手方との和解関連の通達を出しています。その和解条項には守秘義務が含まれているため詳細は差し控えます。そのため訴訟があったのは事実ですが、どの物件でどの企業かというのも守秘義務にあたるため回答は差し控えさせていただきます」
つまり家賃訴訟はあり和解したが、守秘義務のため、すべてノンアンサーだという。しかし、今回の移転を疑問視する声は多い。経営コンサルタントはこう批判する。
「経営再建に向けて銀座本店は減額訴訟まで起こした。ところが、移転先はまた銀座。経費削減したいなら家賃の高い銀座から撤退すべきだ。また、久美子社長は創業者の父、勝久氏の会員制高級家具販売を否定して、中価格品販売で大衆路線を前面に打ち出した。銀座固執は久美子社長の方針に矛盾するため一貫性がない」
経営センスを疑問視する声が上がる一方、大塚家具の銀座本店閉鎖を支持する声もある。
「銀座本店を閉鎖したのは、家賃コストの大幅節約でプラスだ。新店は売り場が10分1というから、従来の銀座本店ほどは高くない。全国で展開する大塚家具の大胆な店舗縮小は徐々に効果を上げてくるはずだ」(業界関係者)
とはいえ、大塚家具は今や4期連続赤字だ。
「大塚家具が上場しているジャスダックは5期連続赤字なら上場廃止となる。ヤマダ電機と提携したとはいえ、新型コロナウイルスの影響で先行きはまったく不透明。上場廃止は免れない」(前出・経営コンサルタント)
賛否両論上がる久美子社長の決断は、英断となるか。