政府の緊急事態宣言延長により、我が国では事実上の「経済活動停止」状況が続くことになる。すでに、所得消滅により「飢え」に直面する国民が出始めている。
というわけで、政府は緊急事態宣言と同時に「大規模財政政策」により国民の所得消滅分を「補填する」ことを決定しなければならないのだ。ところが、宣言延長の記者会見の場で、安倍総理は、
「感染症の影響が長引く中で、わが国の雇用の7割を支える中小・小規模事業者の皆さんが、現在、休業などによって売上がゼロになるような、これまでになく厳しい経営環境に置かれている。その苦しみは痛いほど分かっています」
と発言しておきながら、具体的な「新たな支援策」については一切触れなかった。また、総理は会見の前半で、
「私たちの暮らしを支えてくださっている皆さんへの敬意や感謝、他の人たちへの支え合いの気持ち、そうした思いやりの気持ち、人と人との絆の力があれば、目に見えないウイルスへの恐怖や不安な気持ちに必ずや打ち勝つことができる。私はそう信じています」
と語ったのである。絆の力とやらが、我々の所得を補填してくれるのだろうか。
総理が本当に「国民の苦しみ」が分かっているというならば、やるべきことは一つしかない。「総額100兆円の新規国債発行」の宣言である。
具体的には、すでに提出されている「日本の未来を考える勉強会(代表・安藤裕衆議院議員)」の「100兆円の新規国債発行の経済対策」について、「検討を指示した」と発言するだけである。玉木雄一郎代表率いる国民民主党なども、やはり新規国債発行100兆円を含む提言を出している。総理が「決断」するだけで、瞬く間に「すべての企業、家計への所得全額補償」が決定し、国民は救われる。
ところが、やらない。安倍内閣は緊縮財政至上主義の財務省と本気で戦わない。それどころか、国民の「犠牲」により事態を乗り切ろうとしているのをごまかすべく、「絆の力」とやらの抽象論、精神論を叫ぶ。外出禁止、イベント自粛など政府の方針により、所得を稼ぐことができず、「飢え」や「自殺」に直面している国民を、総理は「絆の力」とやらで、どのように救うつもりなのだろうか?
最近はようやく「誤解」が解けてきたが、政府の新規国債発行とは「政府貨幣発行」にすぎない。いわゆる「国の借金(政府の負債)」は、過去に政府が発行した貨幣額の履歴だ。改めて「政府貨幣発行額」の定義は「中央政府の「国債関連費」を除く歳出総額と歳入総額の差額」になる。要は、中央政府のプライマリーバランス(以下、PB)赤字だ。中央政府のPBが赤字ということは、その分、間違いなく新規国債が発行されている。つまりは、政府貨幣が発行されていると理解して構わない。
というわけで、日本政府のPBの赤字、すなわち「政府貨幣発行額」をグラフ化した。2020年度は、第一次補正予算の新規国債発行分(25兆7000億円)を加えた。
グラフ化すると分かりやすいが、例えば、2019年度は、PB赤字は、
「政府が年間で14兆6000億円の貨幣を発行した」
という意味しか持たない。図の貨幣発行額の「履歴」(政府の負債総額)を持ち出し、「国の借金で破綻する」とやっている連中がどれほど愚かか、理解できるのではないか。
政府の貨幣発行(新規国債発行)は、もちろん会計上は「政府の純負債(債務超過)」の拡大だが、反対側で「我々の純資産(財産)」が増えている(誰かの純負債増は、誰かの純資産増である)。
政府が貨幣発行で「国民」の財産を増やすことこそが「政府の貨幣発行」なのである。
当たり前だが、下の図は「今年、○○兆円の貨幣を発行した」という、政府の貨幣発行額の履歴であるため、「税金で借金を返済する!」といった話にはならない。というより、本気で国債を償還したいならば、読者が持つ貨幣を取り上げ(=徴税)、政府のバランスシートで「ジュッ」と、資産と負債を相殺することになるが、一体そんなことをして何の意味があるのだろうか。
’20年度は、今のところ補正予算分を含めて約35兆円の「政府貨幣発行(新規国債発行)」が決まっているが、圧倒的な「不足」である。現時点で集まってきている情報を分析すると、’19年10月以降、我が国の年間GDP喪失は20%前後に達する。最低でも、100兆円の政府貨幣発行=新規国債発行が必要なのだ。
それどころか、100兆円の政府貨幣発行では、
「運よく、コロナ危機が6月に収束し、第2次世界恐慌が落ち着いたならば、日本のGDPが’19年7〜9月期レベルに戻るかも知れない」
程度の、楽観的な見通しに基づく水準にすぎない。実際には、100兆円でも足りないだろう。
というわけで、政府の新規国債発行=財政赤字の拡大が必須の局面なのだが、安倍内閣が打ち出す対策は規模が小さすぎ、しかも遅い。国民一人当たり10万円の現金給付のドタバタからも分かるように、安倍内閣が「本気」になれば、財務省の壁を突破できる。それにも関わらず、後手後手に回り、国民の所得消滅を事実上、放置している。まさに「国民の敵」としか表現のしようがないのである。
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。