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プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「ディック・ザ・ブルーザー」荒くれファイトで名を馳せた“生傷男”

 殴る蹴るの荒くれ殺法で長くトップに君臨したディック・ザ・ブルーザー。シングルプレーヤーとしてだけでなく、クラッシャー・リソワスキーとのタッグでも一世を風靡した。

 コンプライアンスにうるさい昨今では許されないような“悪さ”が、ブルーザーの最大の魅力であった。

 ※ ※ ※

「今と昔ではプロレスラーの風格や存在感がまったく違う」などと言うと、若いプロレスファンからは反感を買いそうだが、しかし、そうとしか言えない部分は確かにあって、その代表的な1人が“生傷男”ディック・ザ・ブルーザーだ。

 主に使う技はパンチとキック。それも拳骨でぶん殴り、足裏をぶち当てて蹴り倒すといった単純かつ豪快さで、今どきの格闘技における打撃とはまったく別種のものである。

 1968年2月、2度目の来日でジャイアント馬場の保持するインターナショナル・ヘビー級王座に挑戦したときには、逆エビ固めで3本勝負の1本目を奪っており、また、若い頃には、パイルドライバーの態勢で相手を持ち上げて力任せに揺さぶるという、本当に効いているのかよく分からないバックブリーカーをフィニッシュとして使ったりもしている。

 しかし、試合のほとんどはパンチとキックで占められていて、見せ場での大技はキチンシンクやニーリフト、アトミック・ボムズ・アウェイなる呼び名のダイビング・フットスタンプであった。あるいは、目に付いたもので手あたり次第に相手を打ちのめす凶器攻撃も得意で、1965年11月の初来日時、馬場戦では蔵前国技館の床板を蹴破り、それを凶器に使ったことは今でも伝説として語り継がれている。

 言うならば、酒場での荒くれ者の喧嘩の延長線である。外国人選手として決して大きくないブルーザーは、馬場との対戦ではかなりの身長差があったにもかかわらず、リング上や会見場では常に尋常ならざる殺気を発していた。
 同じような容姿と体形、ファイト内容の“粉砕者”クラッシャー・リソワスキーとの“元祖極道コンビ”では、馬場&アントニオ猪木のBI砲をはじめ多くの猛者たちを血祭りに上げている。

「後年にはベビーフェイス(善玉)に転向していますが、殴る蹴るの試合ぶりを変えることなく、それで観客も納得して声援を送っていたのだから、これはもうブルーザーの存在感ゆえとしか説明がつかない」(プロレスライター)

 50歳を数える頃には当時30代半ばと脂の乗ったブルーザー・ブロディを相手に、“ブルーザーの名を懸けた抗争”も繰り広げている。

「嘘か真か、かのルー・テーズが『あんなヤツとはやりたくない』と対戦を拒絶していたという話もあります。テーズの信奉するレスリングとは正反対のスタイルにもかかわらず、絶大なる人気を誇るブルーザーとはやっていられない、となっても不思議はないでしょう」(同)

★ジャイアント馬場を「小僧」呼ばわり

 ブルーザーはその暴れっぷりから、1957年にはマディソン・スクエア・ガーデンを永久追放、ニューヨーク州での試合も一切禁止する処分を受けている。

 試合後の流血乱闘に興奮した観客がリングに押し寄せた際、それを次々と投げ飛ばして椅子を投げつけ、結果、300人近くの観客と制止に入った警察官2人を負傷させたからである。

 リング外でも豪快なエピソードには事欠かない。

 初来日時には移動の新幹線にあった酒を全部飲み干し、馬場に敗れた試合後には銀座でホステスを両脇にはべらせて、「俺は負けてない」と豪語。ファイトマネーのすべてを土産の電化製品につぎ込んだといわれる。

「大学時代にはアメリカンフットボールで名を馳せるも、喧嘩の連続でたびたび放校処分を受け、フットボール引退後には酒場で用心棒をしていたというデビュー以前の逸話については、多分に脚色された部分もあるでしょう。しかし、葉巻をくわえてビールをラッパ飲みし、しゃがれ声で馬場を『小僧』呼ばわりする姿からは、本物の凄味が感じられました」(同)

 その凶悪な顔面とともに凄味の裏付けとなっていたのが、さすが元フットボール選手と言うべき分厚い肉体であった。首の周りが盛り上がり、前屈みにファイティング・ポーズをとれば、背中の筋肉がモコモコうごめくといった具合。

「ステロイド剤がなかった時代、あれだけの肉体を作り上げて維持するためには、裏で相当なトレーニングを積んでいたはずです」(同)

 もちろん、ブルーザー自身はそんなことをおくびにも出さなかった。そういうところもまた、昭和のレスラーの奥深さと言えるのではなかろうか。

ディック・ザ・ブルーザー
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PROFILE●1929年6月27日生まれ〜1991年11月10日没。アメリカ合衆国インディアナ州出身。
身長185㎝、体重118㎏。得意技/パンチ、キック、アトミック・ボムズ・アウェイ。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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